青色の客車に乗り込む。「A寝台」と書かれた車両は、十数人しか乗らない贅沢仕様。そこに、一部屋で大人2人が2段ベッドで横たわれる「ツインデラックス」が私たちの今日の根城だ。
人ひとりがやっと通れるくらいの通路に入り、ひいふうみいと3つ目の扉を開ける。列車の進行方向に向かって大ぶりなシートが一脚、小さなテーブルと小椅子がひとつ。小さな子供のいるファミリーには丁度いい広さの小部屋である。
大きな窓からは上野駅。きっと旅先の様々な様子を映し出してくれるに違いない。荷物を下ろし、椅子に座り「北斗星に乗った」感を味わう。感無量。私の夢、夫婦の夢が叶った瞬間だ。
ーーー 切符をとるのは大変だった。朝6時、最寄りの駅の窓口に一番で予約票を渡しに行く。切符の手配は10時からで、その最初の最初、10時00分00秒01くらいに予約端末を操作してもらうようにお願いする。でなければ、人気列車の切符を抑えることができないのだ。
そして、フライングで端末を操作しても駄目らしい。つまり、手慣れた駅員さんによるスーパーエントリーが必要だ。
そこで、我々夫婦は人海戦術。仕事を休み、嫁ちゃんと私とで別々の駅で予約を依頼。その後一旦帰宅して、10時過ぎに再び駅の窓口に行くことにした。まずは私の予約した駅だ。
「すいません、予約はとれませんでした。」
あぁ、やっぱり難しいんだなと、期待薄で嫁ちゃん予約の2つ目の駅に。北斗星の予約ができる日程を2パターンつくり、今日が駄目なら明後日に、再度予約をトライする・・・失敗することを前提に、綿密に旅行の予定をたてておいた。大丈夫、必ず予約は取れるはず。
「32,580円です。」
え?うっそぉ!その時、ピョーンと飛び上がったことを覚えている。大人気なく「やった!」と思わず叫んでしまった。チケットを手渡してくれた駅員さんにお礼を言ったら「運が良かったね。初めて北斗星のチケットをとりました。」
私達夫婦のはしゃぐ様を見て、にこやかな駅員さんの笑顔が嬉しかった。 ーーー
子供たち二人は2段ベッドの上段へ。はがきサイズと言っていいだろう小窓を覗いたりカーテンを閉めたりではしゃいでいる。黙りたくても黙りきれず、クスクスと必死に押さえ込もうとする笑い声が可愛い。
程なくして、北斗星は動き出す。ガコンと言ったかと思うと、それはそれはゆっくりとした加速度で進んでいく。考えてみれば、客車に乗るのは初めてだ。都心の列車は全て電動モーター付き。先頭車両に引かれて走る北斗星の、優雅なスタートに心が躍る。
「19時03分発 寝台特急北斗星号 札幌行きです。」と車掌の声。自動音声ではなく、生の声。それぞれの車両の説明、お手洗い、シャワー室、食堂車の営業時間と使い方。その全てを体験したいと思わせる。14時間、どのように過ごそうか。
「パパ、ベッドの上面白いよ。」と小さな顔がひょこりと、視界の上のほうに現れた。どれどれと登ってみる。小さなハシゴは大人には少し痛いが、畳の半分もない小さな空間は子供の頃に夢を見た「基地」そのもので、なるほど、子供が興奮するわけだ。
7歳と5歳の子供を抱いて横になると、やっぱり狭い。ぎゅうぎゅう詰めにケタケタ笑う子供達。今晩は果たして眠れるかな?
上野駅で手に入れた弁当をツマミに、プシュと一杯やりながら、街の灯りをテレビのように見続ける。幸せの時間は、まだ始まったばかりである。
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