8歳の時、初めて北の大地に降りた。当時エアコンは家になく、「クーラー車」と書かれたバスが普及し出した時代。真夏であるのにも関わらず過ごしやすい北海道は、運動が苦手で汗をかくのも嫌いという私の心に刻まれることになる。
今でも、北海道への移住は機会があればと思ってしまう。車で行くにはいささか遠いから、選択肢から直ぐに外れてしまうのだけれども。
その北海道は、大人になった後に別の目的で行きたくなった。関東では皆無となった、気動車が走っているからだ。ディーゼルエンジンとトランスミッションを積んだ鉄道は、いったいどんな音がするのだろうか。私はなぜ、子供の頃に乗ったオレンジ色の気動車の音を忘れてしまっていたのだろうか。
特急スーパーおおぞらは、札幌と釧路をつなぐ気動車特急。ステンレスのシルバーに青色のマスクでデザインされたJR北海道283型車両に搭載されるエンジンは、355psを発揮するコマツ製直列6気筒ディーゼルエンジンだ。これを4速ATで鉄路に向かって、全車両協調制御で叩きつける。
それだけでもディーゼル好きにはたまらないものなのに、高速走行の為に車体の傾斜を制御する振り子機構も装備している。最高速度は145km/h。こんな眉唾物を知ってしまったからには、居ても立っても居られない。
私はこの特急列車に、2012年に乗り込んだ。大変、非常に、素晴らしい乗り物だった事を先にお伝えしておこう。
エンジン音は空調や発電機そのた諸々のガラガラ音に混ざってはしまうものの、大変スムーズで力強い領域として感じ取れる。フイィーンという音がいくつか折り重なって和音をつくり、速度の上下に伴って上げ下げされる。流石の完全バランス6気筒エンジンだ。このエンジン音と車内アナウンスを聴いていれば、コーヒーとじゃがりこ(または、ポテロング)だけで札幌〜釧路の4時間を過ごす事は容易いだろう。
ここに加わるのが、変速機というエッセンス。そう、鉄道でありながらシフトチェンジがなされるのである。
アイドリングではエンジン回転音は高めをキープ。出発すると回転数が落ち、エンジンと車輪とを直結制御。最近の車のように細かくシフトチェンジを繰り返さず、回転を引っ張ってはシフトチェンジ、また引っ張っては、シフトチェンジというように、ディーゼルの大トルクを存分に利用しながら速度をだんだんと上げていく。エンジン音の上昇より、速度の上昇が早い印象。エンジン音の上げ下げは緩やかだ。
面白いのは、シフトチェンジをする瞬間。ディーゼルエンジンをトランスミッションとを切り離しているようで、エンジン音がふっと消える瞬間がある。その後(なんとなく)トランスミッションがガコっと言った気がして、またエンジン音が鳴り出す。とても洗練されたメカニカルの中に、なんとも無骨な印象が残るのがキハ283型気動車の面白いところで、私はこの特急列車がたまらなく好きになった。
ただし!特急列車は止まる駅数が少ないから、シフトチェンジによるディーゼル音の上下を楽しむ機会はとても少ない。この希少さも、ディーゼル特急の醍醐味と言えるのかもしれないね。
北の大地を疾走するキハ283型気動車特急。空路から鉄路に人の流れを変えたこの列車には、もっと語るべき魅力があるのだが、それはまた別の機会に話そうと思います。
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